骨髄バンク
ドナーとなって…


福島支部白河道場分支部長
滝嶋 邦彦




 福島支部白河道場の滝島邦彦分支部長が骨髄バンクドナーとしてこのたび骨髄液を提供した。「極真の大会でチャリティーの看板を掲げているからには」との実直な思いから、骨髄バンクにドナー登録。今回の骨髄液提供となった。ここでは手術に臨む気持ちから術後の経過、また骨髄バンクに対する課題などを語っていただいた。

骨髄バンクは
ドナーを必要としている


●まず、ドナー登録のいきさつと骨髄液採取のプロセスから伺います。
滝島 いきさつとしては、私自身がそういう福祉関係にもともと関心があったんです。
白河に道場を出した時から、ボランティア活動をしてましたし、私の弟が障害を持っていたということもあって、その辺りも影響してると思います。
 骨髄バンクの存在はもちろん知っていましたが、何かきっかけがないとなかなか「登録」までは踏み込めないものです。全国の道場生の中にも結構そういう人が多いと思います。
●そのきっかけとは。
滝島 私の場合は、極真がチャリティーで全国大会を開催するようになったことです。
お金を出すという協力のしかたもありますが、やはり必要なのはお金よりもドナーだと思うんです。極真が全国大会や世界大会でチャリティーをやる以上、私たちのように空手を教えている人間がドナーにならなければ、道場生に「骨髄バンクのチャリティーをやってるんだよ」と言うことができない、言う資格がないんじゃないかと思ったんです。三瓶師範の言葉じゃないですが、「言う以上はやらなきゃいけない」。
 まして私は、極真の看板のもと空手で生活している人間なんで、チャリティーの看板だけ掲げてドナー登録しないというのはいけないと思ったんです。あと個人的に、三瓶道場に入って一番お世話になった黒帯の先輩が、白血病で亡くなってるんです。そういうこともあって、「登録をしよう」という思いに至ったわけです。
●実際に登録したのはいつ頃ですか。
滝島 詳しい日付までは覚えてませんが、今から2、3年前です。骨髄バンクには財団のほかに推進連絡協会というボランティア団体があります。その団体の福島県・県南支部に知人がいまして、極真も財団にチャリティーや応援活動をしているんだったら、こちらの活動にも参加してくれないかということを言われました。それで「骨髄バンク支援を看板に掲げていますし、断わるいわれもありませんね」ということで、一緒に活動しているんです。
 現在は1次検査・2次検査は一緒にできるんですが、私の頃は1次検査をして、それからしばらくして適応者の可能性がある人だけ2次検査をするというスタイルでした。2次検査もすぐに終わったんですが、それから全然連絡がなくて、去年の11月ぐらいに「3次検査を受けてくれませんか?」という連絡が来ました。その辺りからだんだん絞られてきて、「骨髄バンクについてどのくらい理解しているのか」とかという説明があるわけです。
●それは病院でですか。
滝島 はい。指定の病院があって、医者とコーディネーターから何度も同じ説明を受けるわけです。「本当に理解していますか?本当にいいんですか?」と。日本の場合、家族の反対があると土壇場でキャンセルもありえますので、最終同意の時には身内を一人連れて行くんです。そして、もう1度同じ説明を受け、同意の上で2人とも署名と捺印をするわけです。それから健康診断の日や移植の日が決まります。

なんと手術前に爆睡
不安も緊張感もなし


●入院は確か今年の3月ですね。
滝島 そうです。そして翌日に骨髄液の採取をしました。お尻に針の穴が数箇所、骨には百箇所以上を刺しました。
●あれは背骨に刺すんですよね?
滝島 いいえ、よく誤解されるんですが、あれは骨の中にある「チョウ骨」という蝶々みたいな骨盤の大きいところ、あそこから取るんですよ。
●ああ、骨盤から取るんですか。
滝島 そうです。そこに針を刺して800cc位を採りました。
●牛乳瓶でいうと4、5本分ですか。かなりの量ですね。
滝島 そうですね。それでも私の骨髄液の中の数パーセントと言ってました。1ヶ月もすれば、また元の量に戻るということです。
●時間はどのくらいかかりましたか。
滝島 手術自体は1時間半から2時間くらいですかね。
●そんなにかかるものじゃないんですね。丸一日かかるかと思ってました。
滝島 そうです、朝の7時くらいにぼーっとする薬を飲んで。そして9時半に手術室で麻酔をかけるという段取りで、それまではストレッチャーの上でリラックスする時間だったんですが、「暇だなー」と思って待機しているうちに爆睡してしまいました(笑)。そして、そのまま連れて行かれちゃって帰ってきたら骨髄液の採取が終わってたんですよ。
●提供はしたいけど、やはりいろいろ不安もあるしということで躊躇する人もいると思います。実感としてはどうでしょう。あっという間に終わったという感じですか。
滝島 そうですね。骨髄バンクで一緒に活動している人からも、空手をしてて万が一の場合は大丈夫なのかということを言われましたし、両親からも同じことを言われたんですけど、私の場合は本当に全然不安を感じなかったです。「駄目なら駄目でもいいや」「死んだら死んだでしょうがないや」と。知人からも「もし半身不随になったりしたらどうすんの」と言われたりしましたが、「なったらそれで空手やります」って言ってました。
 いま教えている生徒にも、私が半身不随になって車椅子で空手を教えていれば、絶対に障害を持った人に対する見方が変わるし、私がそれで空手を教えればきっと空手の幅も広がるだろうと思ってます。ですから全然不安はなかったし、緊張感もなかったです。だから寝ちゃったんだろうけど(笑)。
●すごいですね。あまり例がないでしょう、爆睡しちゃったなんていうのは。
滝島 そうなんでしょうね、笑われましたけど(笑)。

ドナーの安全確保が第一
術後の経過は人それぞれ


●ただ、現実問題として採取による事故はどのくらいの例があるのですか。
滝島 過去2例国内外を含めて死亡例があります。日本で1例、海外で1例です。それは今の骨髄バンクの財団ができる前の状態だったんで、きちんとした設備のないところで局部麻酔でやってしまって、血圧が急に下がったとかで亡くなったらしいですよ。しかし今は、全身麻酔でドナー(提供者)の安全第一でやるのでそういう事故はあり得ません。ただ、麻酔ですから可能性がゼロではないので、そういう意味では全く不安がないとは言えません。だから自分が人に勧める分に関しては「絶対に大丈夫です」とは言えないので、確率的には非常に少ないですと言ってます。だから別のインタビューでも、交通事故の確率よりは少ないんじゃないかと。
●普段の生活をしていても、生存率は100%ではないですからね。
滝島 だから逆に言えば、しっかりそのことを説明するために「過去に2例、死亡がありました」と公表しています。去年で言えば、ドナーに対して院内感染のようなものがありました。でもそれは、感染経路が最終的にはっきりしていないんです。
●手術との因果関係が分からなかったということですね。
滝島 そうです。それで骨髄バンクの方で保障して、その人も完治したんですがね。
そういう事故もきちんと公表していますから、逆に安心ですよね。あと、脊髄から採取すると思っている人も多い。
●ええ、私もそう思っていました。
滝島 実は私もそう思ってたんです。神経がたくさん走っている脊髄から取ると思っている人が多いので、不安に感じるんでしょうね。痛みに関しても、私はかなり軽かったと思います。しかし個人差があって、手術の翌日からしばらくの間、痛くて動けない人もいますし、全然関係なく動ける人もいます。いろんなケースがあるみたいですね。
●痛みや違和感のようなものは何日ぐらいで取れましたか。
滝島 完全に取れた、ということで言えば2週間ぐらいでしょうか。押したら少しゴリゴリするとか、多少は分かるという程度にはありましたけど。
●日常生活に差し支えない程度に回復したのは。
滝島 そうですね、3日後ぐらいですね。どんな感じかって聞かれたんですが、机の角に腰をゴンってぶつけて「あっ、痛てぇな」という、その程度の感じでしたから翌日から一人でトイレにも行けました。私は採取2日後に退院しました。
 その後は3日間休みをもらって、4日目の午前中から稽古指導を始めました。その時までは「あれっ、ちょっと動かないかな」という感じだったんですが、次の日の夜の稽古からはかなり思うように体を動かせるようになりました。だから、実質的には一週間ですね。
●一種の筋肉痛ですかね。
滝島 なんですかね。だから針を刺して、しこりができたっていうような感じで、逆に鈍い痛みというか重い感じでした。ただ、人にこんなことを言うと「そんなことない、一緒にするな」って言われるかもしれないですけど。

時間的拘束がネック
行政機関への協力求める


●先程、福島県南のボランティア活動の手伝いをしているということでしたが、具体的には。
滝島 日々の活動はそんなにありません。主にどこかで行事やイベントがあった時の啓蒙活動ですね。それ以外では保健所に頼んでドナーの休日登録のお願いをするとかですね。いま休日はほとんどの保健所は休みじゃないですか。ですから、非常に登録しづらいという状況にあります。平日に会社を休んで行かないと登録できないんでね。
●基本的に登録は保険所ですか。
滝島 保健所とかそういう施設が何箇所かあります。でも、日曜日に受け付けているところはなかったですね。それがここ1、2年でやっと休日登録ができる施設が何箇所か出てきました。休日登録キャンペーンで無理を言って開けてもらっても登録者がゼロで実績がなかったら、すぐつぶされてしまうんで、そういう時は大々的に知人とかに声をかけて頼んでおくんです。
●日曜日に開けておいて良かったでしょう、という実績を作らないといけないわけですね。
滝島 そうですね、40人分ぐらい準備しておいたのに、10人しかこなかったとなると次からつぶされますからね。しかし去年、初めて福島県南支部でやった時に、過去5年間での累積登録数が1日で集まりましたよ。
●ところで、ドナーになるというのは負担が大きいですね。時間的な面をはじめとして。
滝島 そうですね。一回の登録だけじゃなくて、そのあと2次検査・3次検査があるわけですが、医療機関ですから結局、土日は開いてないわけです。だから平日に行くしかない。それで適合者が見つかった場合、今度は健康診断があるんですが、その時も土日は開いていません。さらにその後、手術のために自分の血を取っておくんですね。
●貯血しておくんですよね、手術の時に自分の血を輸血するために。
滝島 ええ。それも平日しかできませんし、あと手術の前後で最低4日ぐらいは休まないといけないし、術後2週間位で再度健康診断に行かないといけませんからね。これだけ時間を取られるので、よほど理解のある会社か、私らのような自営業者か学生のように自由に時間の都合がつく人じゃないと難しいですよね。
●それだけ拘束されるという。
滝島 ええ。だから今回も面談の時、コーディネーターから「何かありますか?」って聞かれたんで、「提供する側はボランティアでやってるんだから、医療サイドももう少し協力して欲しい」と伝えました。健康診断や検査を土日でもできるようにする必要があります。そうしないと提供者は増えないでしょうね。だって保健所で休日登録のお願いをする時でも、こちらはボランティアで休日を利用してるのに、保険所サイドは休日出勤の手当てが役所から出てるわけでしょう。ドナーだけにボランティア精神を押し付けるのは無理な話です。ですから、医療や国、行政すべてが活動に対してサポートしていくような体制にならないといけないでしょうね。
●資金的な面でも提供者に対してもそうなんですが、善意に頼りすぎているような気がします。医療機関にしても公的機関にしてもそうですが、受け入れ側がそういう個々の善意に応えていくような形がきちんとできていないような気もします。
滝島 行政機関の方にもっと考えていただきたいですね。患者さんも結構負担が大きいみたいですし…。
●金銭的にですか。
滝島 ええ、金銭的な負担も大きいですね。最近は手術の時に保険がきくようにはなったみたいですけど。でも、ドナーの手術分も結局患者が負担するわけですから。臍帯血(さいたいけつ)に関しても患者がかなり負担するような形で決まりそうになってるし。ドナー登録だってもっと増えてもいいはずじゃないですか。それができないのは、やはり行政の怠慢と言われても仕方がないんじゃないですかね。極真の世界大会の時にも、採血して骨髄バンクの登録ができるようになればいいんじゃないかと思ったりするんですが。
●今度のウエイト制大会では会場に献血車がくるようにしました。ただ、ドナー登録まではできないようです。
滝島 そうですね、これがドナー登録になってくると、まず書類を書いてもらって、家族の同意が必要になってくるんです。それが一つネックになりますし、そのあとを処理するのに、どこか公的機関に持って行かなくちゃいけない。

社会的意義を果たすには
ドナー登録者を増やすこと


●今回、滝島さんにこういう形で先鞭を切っていただきました。今後もウエイト制大会や全日本大会、その他の地方大会でも骨髄バンクチャリティー支援をうたい、ある部分社会活動の一環として継続しているわけですが、それについては。
滝島 やはり、お金を出すよりも一番望まれているのはドナーなんですよ。だからドナーを一人でも増やすような方法を考えないと、本当のチャリティーにはならないんじゃないでしょうか。極真が社会的ステイタスを得るために、『骨髄バンクチャリティー』と名前を入れるだけだったらお金だけでもいいんですけど、社会的にやっていこうと思うのであれば、やはりドナーを増やすことを考えていかないといけないと思いますね。
●元気で若い人も多いですから、骨髄バンク側も欲しいでしょうしね(笑)
滝島 そうですね、野田聖子会長も「極真は元気な人も多いから、ぜひ骨髄を下さい」と言ってました。極端な話、極真のチャンピオンクラスがドナーになったとかいうことになれば、その影響は大きいですよ。
●三瓶師範は登録したそうですよ。
滝島 え、そうなんですか。うちの道場にはいつもパンフレットを置いているし、福島の本部にもパンフレットを持っていってますからね。今回、道場生には骨髄バンクのことを説明しました。
●反応はどうでしたか。
滝島 さあ、どうでしょう。ただ「登録しようか考えているんですよ」と話してた人は何人かいました。ただ二の足を踏んでいる部分があって、「針を100ヵ所刺したとか聞くと余計恐い」とか(笑)。いろんな人がいますから、難しいところはありますね。こればっかりは「やれ」とは言えないですから。
●支部長では、楠師範や森垣師範も登録しているとのことです。
滝島 そうですね、いま森垣師範は3次検査まで進んでますから可能性高いですよ。もしそれで提供となると、周囲の人に啓蒙する効果は絶対に出てきます。ましてや森垣支部長は道場生を抱えていますから、そうすると生徒は「ああ、森垣先生やるんだ」ということになりますから影響は大きいですね。採血自体は本当に何ccか取るだけなんで、献血より早いですよ。だから本当に全国の支部長が先頭にたって登録してくれればいいんですけどね。
●どうもありがとうございました。

●インタビューを終えて
 このインタビューは、5月7日の福島県ウエイト制空手道選手権大会の会場で行われました。何の気負いもなく、自然体で骨髄液提供の体験談を語る滝嶋分支部長ですが、そのなかに生来のボランティア精神にあふれる人柄を見たような気がしました。
骨髄バンクは元気のいい骨髄を必要としています。滝嶋分支部長の骨髄提供がきっかけとなって、みんなでドナー登録への協力を考える機会になればと願っています。
(編集部)